広島高等裁判所松江支部 昭和55年(ネ)15号 判決 1981年5月13日
控訴人 国
代理人 原伸太郎 安友源六 伊藤和義 角満美 ほか四名
被控訴人 梶野せき
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文同旨の判決
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
旨の判決
第二主張及び証拠
当事者双方の主張並びに証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決七丁表九行目「政令」の下に、「(昭和五二年四月二六日政令第一一六号国民年金法施行令の一部を改正する政令によつて改正された国民年金法施行令)」と挿入する。)であるから、これを引用する。
(主張について)
一 被控訴人
1 本件処分の違法性について
(一) 本件処分は、昭和五二年七月二〇日になされているが、一部改正法の施行は同年八月一日からであるから、本件処分当時一部改正法により改正された法(以下、新法といい、改正前の法を旧法という。)によつて支給停止することはできないのに、新法によつて本件処分がなされたとするならば、それは明らかに違法である。
(二) 年金の受給権者のうち、昭和五一年の所得超過者にとつては、その支給停止は、昭和五三年四月分までであつて、同年五月分以降は支給停止されないということは、昭和五一年の所得超過を法律要件として確定した法律効果である。従つて、かかる法律効果を、一部改正法によつて受給権者に不利益に変更することは、受給権者のいわば財産権、既得権の侵害となり、許されない。仮にできるとしても、一部改正法の本則に定めるべきであつて、附則で定めることはできない。
2 社会保険庁年金保険部長、同庁医療保険部長、同庁年金保険部国民年金課長の過失について
仮に、控訴人主張の通達が本件のような場合において一五か月分の支給停止を許容する内容のものと解する余地があり、かつ、これが県知事の裁定を事実上拘束するとしても、右各通達を発した社会保険庁年金保険部長、同庁医療保険部長、同庁年金保険部国民年金課長らは、いずれも、故意又は過失により、一部改正法附則三条の解釈を誤り、県知事宛示達した。
3 債務不履行について
仮に、控訴人主張のとおり、本件処分が行政処分でないとしても、被控訴人は、前記のとおり、受給権があるところ、昭和五二年の所得は法七九条の二第六項で準用する法六六条一項所定の所得を超過していないから、控訴人は被控訴人に対し、昭和五三年五月分から同年七月分までの三か月分合計四万五〇〇〇円並びに弁護士費用一〇万円の支払義務があるのに、これを履行しない。
4 控訴人の後記主張はいずれも争う。
二 控訴人
1 本件処分の適法性(原判決事実欄第二、当事者の主張三1ないし7)及び県知事の無過失(前同8、9)について、その理由を更に次のとおり敷えんする。
(一) 本件処分は、以下に述べる理由により適法である。
(1) 老齢福祉年金は、全額国庫負担の、給付を受ける者は無拠出の福祉年金であり、その給付を受ける権利は、法八〇条二項に定める支給要件に該当するとして裁定を受けたときに基本権が生じ(法八三条、一六条)、具体的に年金を受ける支分権が月々自動的に生じるものであつて、このことは、法一八条一項によれば、年金給付の支給は、事由の生じた日の属する月の翌月から始め、権利が消滅した日の属する月で終わることとなつていること、法一八条三項、六六条一項(法七九条の二第六項で準用する場合を含む)によれば、各支払期月にそれぞれ前月までの分を支払うこととなつていることに照らして明らかであり、換言すれば、支分権としての年金債権は「月金」たる性格を持つものであり、従つて、四か月毎に前四か月分を支払うというように各支分権の弁済期が定められているのである。しかして、老齢福祉年金は無拠出の福祉年金であるから、年金支給の必要性が感じられない階層の者にまで給付の必要はなく、併給制限、一定の所得がある場合の支給停止(法七九条の二第六項、六五条ないし六七条)の制度が採られているが、右支給停止は基本権を存続させながら一定期間の支分権を発生させないというものであつて、支分権が月々発生するものである以上その停止の期間も月をもつて最小単位としていることになるのである。このことは、法一八条二項によれば、年金の支給停止はその理由が生じた日の属する月の翌月からその事由の消滅した日の属する月までの分について行われ、支給停止の事由の生じた日と消滅した日が同じ月に属する場合には支給停止はされないこととなつていること、法六六条各項の規定の仕方が月をもつてしており、日や年をもつてはされていないこと、改正法附則三条の規定の仕方も、「昭和五二年七月以前の「月分」、……」と規定していることに照らしても明らかである。ところで、支給停止事由の有無は各支分権ごとに判断されるのであるが、ある支給停止の事由が存在する場合、複数の連続する支分権が支給停止となる規定の仕方をすることは問題がなく、現に法六六条はそのようになつている。そして、どの範囲で一塊りの支分権を支給停止とするかは、合目的的に決める事柄であつて、立法裁量に属するところ、本件のような所得による支給停止の方法は、当該月の所得により当該月分の支分権の支給停止の有無を決めるのが望ましいが、当該月の所得をその都度全国一律かつ客観的公平には握できる所得の資料がないので、結局、当該月の属する年の前年の地方税法上の資料によつて当該月分の支分権の支給停止の有無を決めることになり、そうすると、この資料は一二か月に一度しか作成されないので、連続する一二か月分の支分権について同一資料により支給停止の有無を決めるのが合理的で、現に法はそのように規定した(法七九条の二第六項、六六条一項)。従つて、支給停止の期間一二か月は決して動かせないものではなく、立法裁量によつて変更することができ、ただ、合理的理由なしに変更した場合、立法裁量のゆ越、濫用の問題が生じるだけである。
(2) 受給者からのいわゆる盆暮払いの要望を実現するために(原判決事実欄第二、当事者の主張・三、3)法を改正して、年金の支払期月を改めたのに伴い、支給停止期間の始月を変更する必要が生じた。即ち、(イ)従来どおり支給停止期間を五月分から翌年四月分(以下、五~四サイクルという)とすると、地方税法に基づく前年所得の確定時期が六月下旬であり、これを国民年金の所得審査に用いることができるのは例年七月以降となるので、ぼう大な数の受給権者についてこの事務を短期間に処理することは不可能で、八月の支払期月には前々年の所得によつて支給の決められる四月分一か月分しか支払うことができず、一二月支払期月に七か月分を支払うこととなりこれでは定期的かつ均分に支払うことができなくなり、法の趣旨に反することとなる。(ロ)そこで、支給停止期間を四月分から翌年三月分、八月分から翌年七月分、一二月分から翌年一一月分(以下、これらを、四~三サイクル、八~七サイクル、一二~一一サイクルという)とする三案が考えられるが、四~三サイクルとすると、従来の五~四サイクルから移行する年度に支給停止とならない大多数の受給権者に従前より一か月分少い一一か月分の年金が支払われることとなり、また、第一回支払期月は八月となるが、所得審査等の事務を七月一か月で処理することは不可能であり、一二~一一サイクルとすると、第一回支払期月は翌年四月となり、所得審査の事務を一月ないし三月に処理することとなるが、その時点では前年の所得が確定しておらず、従つて、前々年の所得で支給停止の有無を決めることとなり、制度の趣旨に照らして合理的でなく、これらに比して、八~七サイクルとすると、第一回支払期月は一二月となり、所得審査等の事務処理期間も確保でき、支給停止の有無を決める資料も前年の所得であり、各支払期月に四か月分ずつ均分に支払うことが可能となるので、八~七サイクルが最も合理的である。
(3) そこで、法改正にあたつて、経過措置をどうするかについてみるに、まず、原判決の考え方に従うとすると、改正前に裁定を受けた者はいつまでも五~四サイクルとなり、改正後に裁定を受けた者といつまでも異なつた支給期間が存することとなり、改正後に裁定を受けた者といつまでも異なつた支給停止期間が存することとなり、それでは、法六六条一項の規定に反することとなる。そこで、昭和五三年八月分以降は新法規定どおり八~七サイクルとして、同年五月分から七月分を別個に考えるとすると、(イ)この三か月分の支分権の支給停止の有無を昭和五一年の所得により決めるとすると、結局控訴人の主張と一致することとなり、(ロ)昭和五二年の所得により決めるとすると、結果的に昭和五二年の所得によつて昭和五三年五月分から翌年七月分までの一五か月分の支給停止の有無を決めなければならなくなり、(ハ)この三か月分の支給停止を一切行わないとすると、これは福祉年金の支払停止の制度の趣旨に反するうえ、法改正に際して、予算措置を講ずる必要があるが、現実には特段の予算措置を講じていない。そこで、本件改正法は、昭和五二年五月分から翌年七月分までの支給停止の有無を昭和五一年の所得により決める方法をとつたもので、それは、法改正の際に予算措置を講じていないこと、所得超過の者にも年金を支給することは改正法の立法趣旨に反していること、支給停止制度は、福祉年金にとつて本質的制度であるから、その一時期休止をするには明文の根拠が必要であるがそのような規定がないことに照らし明らかである。従つて、本件改正法による経過措置は、結局、他に明文の規定がない以上、控訴人主張(原判決事実欄第二当事者の主張三6)のとおりとなる。
(二) 仮に本件処分が法律の解釈を誤つた違法なものであるとしても、県知事には、本件処分をしたことについて、過失はない。即ち県知事は、本件処分にあたつて、社会保険庁年金保険部長発都道府県知事宛昭和五二年四月二八日付庁保発第一三号「国民年金法施行令の一部を改正する政令の施行について」、同庁医療保険部長、同庁年金保険部長発都道府県知事宛同年五月二七日付庁保発第一五号「国民年金法等の一部を改正する法律等の施行について」、同庁年金保険部国民年金保険課長発都道府県民生主管部(局)長宛同日付庁保険発第八号「国民年金法等の一部を改正する法律等の施行に伴う事務処理について」の各通達並びに職務上要求される通常の法律知識に基づき、法七九条の二第六項で準用する法六六条一項及び一部改正法附則三条について、控訴人主張のような解釈をし、これを正当と信じ、その合理的根拠もあつたもので、しかも、県知事は、福祉年金について行う受給権の裁定に関する事務においては、主務大臣である厚生大臣の指揮監督を受け、これに拘束される。従つて、県知事には過失はなかつたものである。
2 被控訴人の当審における主張に対する反論
(一) 被控訴人の当審における主張1(一)について、まず、年金の支給停止及び本件処分の法的性質を考察すると、年金の受給権は、基本権と支分権があり(前記控訴人の主張二1(一)(1))、支給の停止は、基本権を存続させながら支分権的請求権をある期間存在させないようにすることであつて、法定の支給停止事由が発生すると同時に支給停止の法律効果が及ぶもので、個々の剥権的行政処分をもつて停止するものではない。即ち、本件処分は、支給停止の効果が生じたことを受給権者に単に通知する行為にしか過ぎず、行政処分ではない。
更に、本件処分は、七月二〇日付で決裁されているが、その通知が被控訴人宛到達したのは早くても昭和五二年八月一二日以降であつて、一部改正法の施行後であるから、通知行為自体としても何ら違法性はない。
(二) 前同1(二)について、争う。
(三) 前同2について、社会保険庁年金保険部長、同庁医療保険部長、同庁年金保険部国民年金課長は、それぞれ、各通知を発しているが、これらについては、一部改正法を企画・立案した年金局と十分な協議のうえ作成したもので、かつ、合理的解釈に従つたもので、これらの通知を発したことに何ら違法性は存しない。
(四) 前同3については、争う。
(証拠について)<略>
理由
一 まず、当事者間において争いのない事実については、原判決理由欄「一、争いのない事実」に記載してあるとおりであるから(但し、原判決八丁表三行目冒頭「令」の下に、「(昭和五二年四月二六日政令第一一六号国民年金法施行令の一部を改正する政令によつて改正され国民年金法施行令)」と挿入する。)、これを引用し、一部改正法による改正(以下、本件改正という。)の趣旨並びに右改正による支払期月の変更等については、原判決理由欄「二、本件処分の適法性について」の冒頭記載(原判決八丁表一〇行目冒頭から同丁裏九行目末まで)のとおりであるから、これを引用する。
二 そこで、本件処分の適法性について検討することとする。
1 まず、年金の支給停止の期間が年をもつて定められているか、それとも月をもつて定められているかを考察する。法七九条の二第六項で準用する法六六条一項のその期間についての規定の仕方をみると、本件改正前においては「その年の五月から翌年の四月まで」と規定しており、本件改正後においても「その年の八月から翌年の七月まで」と規定していること、他方、法は、他の年金の支給停止の期間について、「……から六年間」という規定の仕方もしていること(法三六条一項、四一条一項、四六条、五二条など)、かかる規定の仕方とは別に、内容についても、法一八条二項は、支給停止事由の発生・消滅に伴う支給停止の開始・終了について、月を単位として規定していること等に徴すると、法は、支給停止の期間について月をもつて定めていると解すべきである。そして、法は、同一の資料によつて連続する複数の月分の支給停止を禁じているものではなく、本件改正前、後ともに前年の所得超過を要件として、一か年としてではなく、連続する複数の月分として、一二か月分の支給停止を定めていると解すべきであつて、「年金」という名称であること、支給停止の期間が一二か月であることから直ちに法がその期間を定めるのに年をもつてしていると解することはできない。
2 次に、本件改正に伴う経過措置についてみると、一部改正法附則三条は、「昭和五二年七月以前の月分の福祉年金の支給停止については、なお従前の例による。」と規定しており、同附則一条によれば、一部改正法の施行日は同年八月一日であつて、法は前記のとおり支給停止の期間について月をもつて定めていると解されるから、別異に解すべき特段の事情のない限り、その経過措置規定も同じく月をもつて定められていると解すべきであり、同附則三条の規定の仕方からしても、明らかに期間について月をもつて定めているものである。そうすると、同附則一条、三条によれば、昭和五二年七月以前の月分については旧法が、同年八月以降の月分については新法がそれぞれ適用されることとなり、これを本件についてあてはめてみると、昭和五二年五月から同年七月までの月分は、法七九条の二第六項で準用する本件改正前の法六六条一項によつて、前年である昭和五一年の所得により支給停止の有無が定まり、昭和五二年八月から翌年七月までの月分は、法七九条の二第六項で準用する本件改正後の法六六条一項によつて、前年である昭和五一年の所得により支給停止の有無が定まることとなる。
3 被控訴人は、本件改正の前後を通じて支給停止の期間は一年間であつて、本件処分が本件改正法の施行前であるから、昭和五一年の所得超過による支給停止は昭和五二年五月から昭和五三年四月までの一二か月分であると主張する。しかし、被控訴人の主張は、前記のとおり、支給停止の期間が月をもつて定められており、経過措置規定に照らし、これを採用することはできない。なお、本件改正に伴う経過措置について、仮に、被控訴人主張のとおりだとすると以下のような、不合理な点がある。即ち、同じ昭和五一年の所得超過者について、支給停止は、処分の日が昭和五二年七月末までであれば同年五月分から翌年四月分までとなり、処分の日が昭和五二年八月一日以降であれば同年八月分から翌年七月分までとなつて適用が区々となること、前者の場合には昭和五三年五月分から七月分までの三か月分について、本件改正後の法六六条一項によれば前々年である昭和五一年の所得超過によつて支給停止となるべきで、そうすると結局控訴人の主張と同じ結論となること、仮に新法が適用されないとすると、経過措置規定を欠くこととなつてしまい、通常はそのようなことは余りないことであり、経過措置規定の欠缺だとして昭和五一年の所得超過者全員、特に、継続的所得超過者に対しても年金を支給すること自体が無拠出の年金制度の趣旨に照らして矛盾すること、更に後者の場合も、昭和五二年五月分から七月分までの三か月分については同附則三条によつて支給停止となることは明らかで、そうすると、結局、昭和五二年五月分から翌年七月分まで支給停止となり、この場合にも控訴人の主張と同じ結論となること等、被控訴人の主張としては不合理な点が考えられるのであつて、本件改正の目的がいわゆる盆暮払いの要望にこたえるため年金の支払期月を改めることにあり、それに伴い、支給停止の始月と終月を変更したもので、支給停止に関する法改正の趣旨が右に尽きることを考えても、被控訴人の主張は採用できない。
4 被控訴人は、また、本件処分によつて本来一二か月であるべき被控訴人の支給停止が一五か月になるのは、財産権の侵害あるいは既得権の侵害となるから許されないと主張する。そこで、以下、検討すると、およそ、法改正あるいはそれに伴う経過措置を定め、又はそれらの規定の解釈に当たつては、既得権の侵害をすることのないよう注意しなければならないのであるが、本件においては、本件改正に伴う経過措置の結果として、昭和五一年の所得超過者は、昭和五二年五月分から翌年七月分までの一五か月分の支給停止を受けることとなる。しかし、年金の受給については、まず、法一六条の裁定を受けて、いわば受給の基本権が生じ、具体的には各月の到来によつて当該月分の支分権が生じるというべきであつて、未到来の月についての支分権は未発生であり、従つて、未到来の月の支分権は財産権又は既得権とはならないと解すべきである。そうすると、本件では、前記のとおり、支給停止の期間が一五か月となつても、財産権又は既得権の侵害とはならないと解される。そして、財産権又は既得権の侵害とならない以上、本件改正に伴い、経過措置をどう定めるかは、立法裁量の問題であつて、裁量範囲の逸脱あるいは裁量権の濫用があれば格別であるが、これについては被控訴人からの主張・立証がなく、むしろ、<証拠略>によれば、一部改正法、同附則の立法にあたつて昭和五一年の所得超過者が連続して一五か月分の支給停止とならぬように検討したが、事務関係の技術上困難があつたため、事務関係の技術上の理由のみによつて本件改正の経過措置が定められていることが認められるので、本件改正に伴う経過措置を定めるについて、立法裁量の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用した違法はないというべきである。
5 被控訴人は、また、本件改正によつて、支給停止の期間が変更になるのであるとするならば、一部改正法の本則でそれを定めるべきであつて、同附則で定める事項ではないと主張するが、一部改正法附則は、支給停止期間の変更を規定したものではないから、この点において、右主張は前提を欠くものである。
6 更に、被控訴人は、本件処分の日が一部改正法の施行前であるのに、新法を適用しているから本件処分は違法であると主張し、控訴人は、これに対して、本件処分の法的性質は通知に過ぎず、しかも、右通知が被控訴人に到達したのは一部改正法施行後で、早くても昭和五二年八月一二日以降であるから、何ら違法ではないと主張する。本件処分の法的性質が何であるかの点はしばらく措くとして、本件処分が控訴人主張の日以降に被控訴人に到達したことは被控訴人において明らかに争わないので、そうすると、被控訴人主張のようなかしはないことになる(そもそも、本件においては、被控訴人は、前述のとおり、昭和五三年五月分から七月分までの三か月分の年金について実体上も請求できないのであるから、被控訴人に右年金相当額の損害が生じるものではない。)。従つて、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人の右主張は採用できない。
三 以上のとおり、一部改正法附則三条、法七九条の二第六項、本件改正前の法六六条一項並びに本件改正後の法七九条の二第六項、六六条一項によれば、被控訴人については、昭和五一年の所得超過によつて、昭和五二年五月分から翌年七月分まで支給停止されるのであつて、これを被控訴人に通知した本件処分に何ら違法はなく、被控訴人には昭和五三年五月分から七月分までの三か月分の支分権に基く本訴請求にかかる請求権はないので、県知事の過失等その余の点について判断すまでもなく、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は失当である。
よつて、右請求を認容した原判決は不当であるからこれを取消して、被控訴人の右請求を棄却することとして、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤原吉備彦 萩原昌三郎 安倉孝弘)